この家の建主さんは、以前、私たちが設計した鎌倉山にある「ギャラリー招山」を訪れ、その空間をとても気に入っていただき、自宅の設計をお願いしたいと、と連絡をくれました。私も大好きな建物だっただけに、連絡を受けたときは、とても嬉しかったです。

 建て主さんからの要望は「シンプル。でも木の温かみがある家」。ご夫婦の仕事柄、自宅で過ごすことが多く、寝室・書斎・アトリエを2階に配置。そこにテラスまで覆う大きな1枚の扇垂木の屋根をかけました。壁は珪藻土のコテ仕上げ。素材や質感については、ご夫婦のこだわりがあり、綿密な打ち合わせの上で決定していきました。

 空調システムとしては、パッシブソーラー「そよ風」を計画したので、各部屋は扉で区切られても欄間は大きく開放し、空気を循環させると同時に、どこからでも屋根の架構を見ることができるようになりました。屋根の扇垂木は大工さんの力作です。

 この屋根の存在で非常に力強い芯のある家の構成ができているのですが、扇垂木の端正な並び、床、壁、金物の組み合わせを丁寧に調整したことで、力強さと同時に繊細な表情も併せ持つ、魅力的な空間に仕上がりました。

(2020年7月竣工)